原情景
若かった、何もかもが。
隔週刊の『青春のうた』というCDつきマガジンを買い、それを見ながらしみじみと、パンタロンとブーツカットの違いについて、思いを馳せていて、ふとあることを思い出した。
それは私が3~4歳の頃のこと。
… ある日、私は母に連れられて、買い物帰りの道を歩いていた。
その前方を、男が歩いていた。
男の格好は、当時の若者の流行りだった、長髪にバンダナ、色んな色のペンキがかかったピチピチのパンタロンのジーンズだった。
その男を見て、私は指を指して大声で言った。 「あのおじちゃん、ズボンよごれてる!」
母は男に声が聞こえていたらマズい、と思ったのか、「おじちゃんじゃない。おにいちゃん。」と、私をたしなめた。
しかし、私は再び大声で指を指して言った。 「あのおにいちゃん、ズボンよごれてる!」
「汚れとるんじゃない。あれはああいうズボンなん。」と、母は私に諭した。
汚れている「ダメなズボン」に対して、「ああいうズボン」とは理解できない、子供の私は、
「よごれてるズボン、はいとってもええの?」
…しまいに母に「静かにしなさい!」と怒られた。
神戸は西鈴蘭台の、ある坂道でのことだった。
場所も光景もはっきり覚えている、私の歴史の中でも古い記憶だ。
… あの「よごれてるズボン」を履いていた「おにいちゃん」は、きっと今頃50代。
子供の私に指を指されたことを、覚えているだろうか。
そして、今はどんな格好で歩いているのだろう…。
(2006-2-4)

